私はタミルナードゥ州・州都のチェンナイに駐在していました。
インドの言語といえば、ヒンディー語(ヒンドゥーではない!ヒンドゥーは宗教)が真っ先に浮かびますが、ここチェンナイの公用語はタミル語で、ヒンディー語を知っている人は、割合的にあまり多くない印象です。
仕事で南インドの玄関口であるチェンナイへ赴任しています。こちらの生活にもだいぶ慣れてきたので、私が留学したことのあるバンコクと比べつつ、チェンナイ生活のリアルについて、雑感を書いていこうと思います。(注:こちらの記事は、「チェンナ[…]
北インド(ヒンディー語圏)から仕事でチェンナイに来ている同僚はほぼ例外なく、「タミルナードゥはヒンディー語が通じなくて難しいし、タミル語を学ぶ気もない」というようなことを言っています(笑)インドの南北間の溝を感じる瞬間でもあります・・
私は語学が好きなので、せっかくチェンナイに長期滞在するなら、タミル語もちょっとは学んでみようと思い、日本で『ニューエクスプレス タミル語』を買い、意気揚々とチェンナイに降り立ちました。
今回は、知名度は低いものの、知る人ぞ知るすごい言語である(しかも日本語と似ている!)タミル語について、気ままに書いてみようと思います〜
タミル語は生きた化石レベルの非常に古い言語
タミル語はインド先住民族ドラヴィダ人の言語
タミル語とインド・ヨーロッパ語族のヒンディー語とは全然違う
まず前提ですが、タミル語はドラヴィダ語族の言語です。インド・ヨーロッパ語族の言語である、ヒンディー語などの北インドの言語とは全然違います。
もともとインド亜大陸に住んでいたのはドラヴィダ人でしたが、アーリア人がドラヴィダ人を征服しながら、紀元前1000年ごろには、ガンジス川流域まで影響力を広めていったのでした。
南インドはドラヴィダ系
ドラヴィダ人はアーリア人に土地を奪われながら、南インドの方に居住するようになっていきました。その南インドが、現在のタミルナードゥ州、アンドラプラデシュ州、カルナータカ州、ケーララ州です。
それぞれの州の公用語は、タミル語、テルグ語、カンナダ語、マラヤーラム語で、全てドラヴィダ語族です。比較的似ている言語のためか、私のケーララ出身の同僚で、チェンナイで何年も働いていた人は、皆タミル語を流暢に話していました。
タミル語の歴史は紀元前に遡る
インド先住民族の言語グループであるドラヴィダ語族ですが、中でもタミル語の歴史は古く、文字として残っている一番古いものが、紀元前200年あたりのもので、洞窟銘文と陶器片に残っています。
そんな最古のタミル語と同時代の言語は、パルティア語など、とっくに絶滅した古代言語や、古代アラビア語や古代ペルシャ語など、現代に続いてはいるものの大きく形を変えたものばかりです。
タミル語と比べて日本語の歴史は浅め
タミル語ももちろん形の変遷はありますが、2000年も前から変化が少なめと言われる言語として、シーラカンス並みの生きた化石言語なのではないかと、私は思っています(笑)
ちなみに、かろうじて日本語(上代日本語)の単語の記録が書物に認められるのは、711年の古事記が最初です。しかも、日本語の文章が記されているわけではなく、単語レベルの日本語が記されているだけなので、私のような一般人には、何が書いてあるかさっぱりでしょう・・
ちなみに、ダクシナチトラという、チェンナイ郊外にある、南インド文化村のような施設では、展示で古いタミル語についても触れています。
タミルナードゥ州の州都・チェンナイを玄関口とする南インド。デリーを代表とする北インドとは、言語面・文化面では外国ほどにも…
失われたレムリア大陸にはタミル語を話すタミル人の文明があった??
私のような古代文明好きをワクワクさせる、失われた大陸の話。1~3世紀(古い!)の「サンガム文学」というタミル文学にはたびたびクマリ・カンダムという、レムリア文明に類似した王国の話が出てきます。
その話によると、このレムリア大陸は古代に水没したそうです。とはいえ、一般にレムリア大陸や文明の存在が知られていない以上、歴史的根拠はあまり強くないのでしょう。
ロマンを掻き立てる話です。もしレムリア大陸が存在して、そこに高度なタミル人の文明があり、なおかつレムリア大陸が水没していなかったら・・などと妄想を膨らませるのも面白いです。ムー大陸やアトランティスのようですね。
タミル語の使い道は意外と多い-インドだけでなくスリランカやシンガポール、マレーシアでも
シンガポールに行ったことあるならタミル文字も見たはず
日本での知名度はあまり高くないタミル語ですが、インドをはじめ、タミル系住民の多い、スリランカ、マレーシア、シンガポールで公用語に一つに定められています。
特にシンガポールの空港や鉄道などで、英語、中国語、マレー語と一緒に、よくわからない文字が表記されているのを見たことがある方も多いのでは? それがタミル語です。
タミル語話者人口は日本語話者人口を近い将来超えるのでは?
こういった国々に加え、全世界のタミル系移民の話者も加えると、7,000万人ほどの話者人口がありそうです。
これは、イタリア語や朝鮮語、ベトナム語と同規模です。インドの人口が大幅に伸びているのに対して、日本が少子高齢化を抜け出せそうにもないので、そのうちタミル語の話者人口が日本語の話者人口を超える日が来るのではないかとも思えます。
私とタミル語の運命の出会い
ちなみに、私が高校3年生になる直前に、初海外でイギリスの姉妹校に1週間ほど派遣されたのですが、その時お世話になったホストファミリーはスリランカ系タミル人移民でした。
まさかあの時は、自分がタミル語を学ぶとはつゆほどにも思ってませんでした。人生何があるかわからず、面白いです。
私の母校である、埼玉県立浦和高等学校の紹介です。私が卒業した後は、以前「滑り止め」(注)などと失礼な言い方をしていた私立の高校に、東大合格者数で後れを取っている年もあるらしいですね。若干逆境?ということで、学校行事部活動勉[…]
語学好きな東京外国語大学出身の友人が認める最も美しい文字はタミル文字
語学好きにタミル文字は堪らない
私の友人に、私より語学が大好きな東京外大出身者がいるのですが、彼にチェンナイに行くことを伝えると、非常に羨ましがられました。
彼が思うに、タミル語は最も美しい文字だそうな。最もかどうかは置いておいて、私もタミル文字が美しいという主張には賛成です。流麗という言葉がしっくりくるような文字です。
タミル文字を覚えるのは難しくない
私は何十もの言語を研究しているわけではないですが、今までかじってみた言語の中では、タイ文字と張る美しさではないかと思います。
ちなみに、タイ文字はハングルのように、母音と子音を組み合わせて文字を作っていきますが、タミル文字はどちらかというとひらがなやカタカナのように、一つ一つの文字が独立してできています(多少の法則性はあります)。
最近は、日本人学習者も増えてきたように思われるタイ語。私はひょんなことからタイに留学することになり、それ以来、この奇妙で美しい言語との付き合いが始まりました。[sitecard subtitle=関連記事 url=https://[…]
基本的に、タミル文字は216文字で、慣れないうちは覚えるのが大変ですが、分量的には、ひらがな+カタカナ+小学校1年生で習う漢字くらいなので、日本人的にはイケる気がしてきます。
外国語の発音が苦手な日本人でも大丈夫?タミル語発音のポイント
英語を始め、外国語が苦手な日本人。大きな理由の一つとしては、日本語に母音が5つしかなく、子音の数もあまり多くないことです。
母音が5つだけというのは美しい言語だなとも思いますが、それが外国語を学ぶ際の足かせにもなっています・・
タミル語は日本語より音が少ない
では、タミル語はどうでしょうか? タミル語と比べると、日本語の方が全体的に音が多いです!
私は職場のタミル人に日本語を教えているのですが、人によっては日本語の発音にかなり苦労しています。
例えば、さ行とザ行、か行とガ行、た行とタ行など。タミル語にはあまり濁点がないんですよね・・ 「しゃ」とか「しゅ」などの、小さい音が入る発音にも苦労しています。
学校の英語テストの文章題には、教科書の文章中に空欄があって、「空欄に入る単語(文章)を書け」っていう問題よくありますよね? 私は中高生の時、「こんな丸暗記しなきゃ解けない問題出すから、日本の英語教育はダメなんだ」とか、よく毒づいていまし[…]
タミル語には「ら行」がなんと5種類も
では、タミル語の発音は日本人にとって難しいのでしょうか・・?
日本語の方が音が多いので、例えば、英語の発音を習得するよりは簡単かなあと個人的には思います。一番の難関は、日本語で言う「ら行」が5種類あること・・汗
5種類あるとはいえ、ネイティブのタミル人も、日常生活において厳密に使い分けていない場合が多いようなので、そこまで神経質にならなくていいと思います。
以外にも共通点が多い日本語とタミル語
この記事で初めてタミル語について知ったと言う方もいるのではないでしょうか? そんな馴染みのないタミル語ですが、以外にも日本語との共通点が多いのです。
まず、文法構造が似ています。基本的には、主語+目的語+述語の順番です。語尾の活用もしますし、敬語もあります。
著名な国語学者である大野晋さんも、「クレオールタミル語説」という、日本語の起源はタミル語であるという説を大真面目に説いています。詳しくは大野さんの本を読んでみてください。クレオールタミル語説はなかなか興味深いです。
タミル語を学ぶ意義とは?
タミル語学習のススメ
タミル語を学んでも、日本で使うことはあまりないでしょう。その点は、ヨーロッパの言語などと同様ですね。
ただ、もしタミル語が公用語になっている地域に滞在するなら、ちょっとでもタミル語を学んでおくことをオススメします! やはり、英語が通じない人も多いですし、タミル語がちょっとでもわかって、話せると、相手の反応が変わります。
外国人が自分の言語を喋ってくれたら嬉しいもの
あなたも、外国人が自分の母国語を片言でも頑張って喋ってくれたら嬉しくないですが?? それと同じで、タミル人も私がタミル語の単語を少し使うだけでも、嬉しそうにしてくれます。そんな彼らの反応を見て、私も嬉しくなります。
アメリカ人やイギリス人に下手な英語で話しかけても取り合ってくれないかもしれませんが、いい意味でマイナーな言語ほど、ちょっとでも喋れた時の効果が大きいです! 旅先でも、助けてくれる人が増えるでしょう。
タミル語はバークレーハウス語学センターでも学べる
バークレーハウス語学センターは1973年創業の、日本で3番目に歴史のある語学学校で、アメリカの名門大学・UCバークレーの教授と開発したSRメソッドを活用しています。
JICAや外務省等、大手企業・有名大学・官公庁での語学教育サービスも提供している実績のある語学学校で、タミル語をマンツーマンで学ぶことができます!
終わりに
どうでしょう? タミル語について興味を持っていただけたでしょうか? 知名度は低いけど、タミル語は意外とすごくて、日本語にも近い言語なのです!
タミル語をちょっと知っているだけでも、世界中のタミル人コミュニティとの距離が縮まると思いますよ〜 この際に少しでも勉強してみてはいかが?